2013/07/07

明け渡すこと。開拓すること。代謝するということ。

今日の発表会を調理場から眺めていた。
弟子達の上達ぶりがすごい。
ここ1年で彼らはぐっと巧くなり、説得力、求心力が演奏から出て来た。

井上くんの伴奏は更にリズムが安定して来て安心感がある。
林本くんはメロディを弾く音自体が太く、伸びやかになってきた。
池田くんは音の密度が更に濃くなって、弾き始めると周りの人が息をのむようになった。
麻生くんはもともとの巧さに加えて人をケアし対比して弾く事ができてきた。
本当に全員がすでに「才能あるアーティスト」に変貌していた。

これほど嬉しい事はない。
心から嬉しく思い、頼もしく感じ、
同時に、彼らがメインになる時代がきたなと感じた。
もっともっと彼らを紹介し、押し立ててゆかないといけない。
それも僕の大事な仕事になってきたということだ。

もうひとつ何となく啓示のように思ったことがある。
もうすでに僕はこの場所の住人ではなく、
新しい土地を求めて模索し旅立たなくてはならないということ。

もしもいまだに僕が彼らと同じライフスタイルの場所に留まろうとしていたら、
彼らにとっては邪魔者でしかないだろうし、僕も進歩しなかっただろう。
ただでさえ新陳代謝の少ない小さな音楽業界だ。
都内のライブハウスは小さな箱に鞍替えした先輩ミュージシャンのブッキングが水面を覆い尽くしている。
酸欠になった水中では新しい生命は育まれず、誰も音楽業界に夢を持たなくなっている。
「プロミュージシャンを目指している」という生徒さんにとんと出会わなくなって久しいのも、
構造的な新陳代謝の悪さに原因があると思う。

3年前に僕と清水くんはこれまでのライフスタイル、ビジネスモデルと決別した。
それまで積み上げてきたものを手放し、新しい畑を耕そう、野菜が育つかわからないけれども。
そんな決断だったし、悩み抜いて大変な決断をしたと今は思う。
僕らのいなくなった後の肥沃な大地で、今弟子達が大輪の花を咲かそうとしている。
こんなにうれしいことはない。
次は僕の番だ。
新しいライフスタイルを模索するのだ。

まだ自分の次のライフスタイルがどんなものなのかは半分くらいしか理解できていないが、
この3年でおぼろげながら見えて来た世界があるように思っている。
それは身近に見て来た先輩ミュージシャンや仕事仲間の足跡とも違い、
メジャーやインディーズレーベルで培ってきたビジネス論とも違う。
そして敬愛するタック&パティさんが歩んで来た道とも違うようだ。

もはや自分の歩く先に「お手本」がいない。
そんな世界が霧のように立ちこめている。
でも、そこを進まねばならない。
いつかやってくるであろう「弟子達の弟子」が酸欠にならないように。
僕が代謝を促して行かなくてはいけないんだ。